君の声(2.18加筆
『今日はね、今年一番の寒さだって。ほら、こんなに手が冷たくなっちゃった』
意識がゆるりと浮上して、鼓膜を慣れた声が揺らす。握られた手のひらはひどく冷たい。
手を伸ばそうとしても冷えた骸のように何も思い通りにいかない
何度繰り返しただろう
暗い底へと引き摺り込まれていきそうになる
おまえがくるのはこっちだと
それでも生きる事を手放したいとはどうしても思えなかった
名を呼ぶ先へと
その光の在る場所へと
「ねえ、獠、聞こえてる?」
問いかける声は、細く心許ない。
『泣くなよ』
そう伝えたくても喉元を揺らすことさえ叶わない。
「あんたの為に泣いてあげたりしないから」
強がりの塊は相変わらず健在だが、触れてくる指先は微かに震えて、真逆の気持ちを余すことなく伝えている。
『相変わらず素直じゃないのな』
覚醒してきた嗅覚が、消毒液の匂いを、僅かに残る硝煙の残り香を、誰にも渡したくない大切な香りを鮮明に連れてきて、鼻先から頭の中までに満ちていく。
聴覚はより鮮明で、漏らすことなくその声を掬い上げようと思わず指先に力が入る気がした。
「ねえ、あたしの声聴こえてる?」
『聴こえてるよ』
温かい。手のひらから伝わる温もりは、未だままならない残りの五感をゆっくりと溶かしていく。
閉じた瞼に熱が辿り着く。
「帰ってくるよね、獠……」
閉じられた瞳は祈りのような憂いを含み、触れたくて、触れたくて、熱を帯びた感覚を感情に乗せて手を差し伸べてみる。どんなに願っても掴むことさえできなかった光がそこに在る。
指先にふわりと絡みつく
帰ってきた
そう思えた
『帰ってきた…だろ?』
声にならない声がどうしようもなくもどかしい。
瞳が合う
なんて顔してるんだよ、と揶揄いたいぐらいに目を見開いてこちらを見ている
頰に触れる
喉元を熱い何かが駆け上がっていく
「お前が待ってるからな」
届いた言葉に、目の前の綺麗なものがぐしゃりと歪む。泣かない。と言っていた瞳から溢れるぐらいに強がりの膜が剥がれ落ちていき、涙色に染めていく。
何度でも帰るよ
何度でも
「おかえ……り」
悲しい涙は見せないくせにこんな時だけ涙で縋る胸の中の温かさに口角がゆるりと上がっていく。
視覚の先には窓一面に広がる眩しい光が広がっている。
だけどそんなものより眩しいものは
この腕の中で震えている
「ただいま」
fin
2.18加筆
先にお話を考えていましたが、短い漫画が先にできたので先にアップします🙏
ラフすぎるぐらいに描いたのでまた後で描き直すかも。です🙏🙏分かりづらかったらごめんなさい🙇♀️
また後でお話も上げさせて頂きます🙏
下のイラストは落書きしてた二人です(๑>◡<๑)
2023.1.27
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