2023.01.27 08:32君の声(2.18加筆『今日はね、今年一番の寒さだって。ほら、こんなに手が冷たくなっちゃった』意識がゆるりと浮上して、鼓膜を慣れた声が揺らす。握られた手のひらはひどく冷たい。手を伸ばそうとしても冷えた骸のように何も思い通りにいかない何度繰り返しただろう暗い底へと引き摺り込まれていきそうになるおまえがくるのはこっちだとそれでも生きる事を手放したいとはどうしても思えなかった名を呼ぶ先へとその光の在る場所へと「ねえ、獠、聞こ...
2021.05.07 06:42a wish 後編 (文例えば時計を巻き戻して、こんな目に遭わぬようにと腕の中に閉じ込めていても廻る時間の中ではいつかはきっと変わらぬような出来事は起こるのかもしれない背中合わせで落とし穴が潜む世界から、遠ざけたいと頭の中の冷静な部分はいつでも答えを突き付けているのに,この手の指先がいつも躊躇う触れる事さえ躊躇われるのにその名を幸せというならば俺はきっともう手離せない扉を開けて飛び込んできた光景に、全身に冷えたモノが駆け...
2021.05.01 15:03a wish 中編 (文嫌な予感がした。俗に言う第六感というモノで、外れる事など記憶にある限り無くて。ソレがやけに胸の中で蠢いていた。「獠! 大変よ! 香さんが!」滅多に動揺を見せない冴子が尖った声で叫ぶ。冴子からの仕事をこなすために、数日前から人里離れた山奥で缶詰状態の日々を過ごし、ターゲットの動きがやっと、との所で、帰る算段が付いたと内心安堵していたはずなのに。 「香? 何があった?」心臓が煩く騒ぎだす。それを...
2021.04.27 11:28a wish 前編(文 晴れた青空の色の下、囲まれるように視界を奪われる。反射的に身構えると、立ち並んだ男の一人が背広の内側に右手を差し入れるのを瞬時に捉えて、ハンドバッグに手を伸ばそうとして思考が固まる。そうだーーー脂汗がひんやりと背中をつたう感覚で動悸が止まらない。こんな場所で晒していいものではないから余計に状況判断に迷いが生まれる。「槇村香さん。ですね?」お決まりの文句だ。いやに落ち着いた声色が跳ねる動悸を更に加...
2021.03.09 05:08眠らない街で会いましょう (文「ちょっとはそこで頭冷やしてろ!」 肩を突かれて、店の外に追いやられると、乱暴に扉が閉まる音が響いた。赤や青や光の渦が汚いものも飲み込んでいく。こんな風に地べたに座り込み、片足からヒールが脱げかけていても、少しだけの関心を向けながらまた誰もが足早に過ぎていく。 流れる人の波をスローモーションのように感じながら、ぼんやりと眺めていると、綺麗に磨かれているハイヒールの先が視界の先に映り込んだ。「大丈夫...
2021.03.05 23:53溺れる魚は息さえ忘れる (文溺れる魚は息をする事も忘れるという溺れ、溺れてこのままと願う様が滑稽で、時に酷く残酷な言葉が舌をするりと滑り落ちていく日常茶飯事。通常運転切り抜けられるはずが、やけに焦燥感だけが増していく待っていたのは予想外の、冷水さながらの言葉だった「冴羽さん、右か左か選んで」あまりに唐突で、いきなり何だ。と、口に含んだ少し苦めのコーヒーを思わずごくりと飲み込む。「……なんだよ?」あまりいい展開にならないであろ...
2020.12.30 05:54あいのうた 2 (文 ※パラレルになります。苦手な方はスルーお願いします🙏『香?』『香!!』『行くな! 行くな! 香!』ちゃんと聴こえていたのに、もうどうしようもなかった。せめて幸せでいて欲しかった。さよならも言えずにごめんね、アニキ。何故か胸騒ぎがしてもう一度だけと、降りてきた時にはアニキはもうどこにも居なかった。涙はいつまでも止まらなくて。会いたいと願って願って願って叫んだらふわりと優しい手に包まれた。まだいるんだね、ここに。あたしはもう今度こそ離れない。そう決めた...
2020.12.27 10:31あいのうた 1 (※パラレルになります🙏苦手な方はそっ閉じお願いします🙏パラレルになります。クリスマスまでにお話仕上がればいいなと思いながらお絵描き、お話をかいていました(*´∀`*)長くなりそうなので、少しだけお話続きます🙏パラレルなので苦手な方はスルーをお願い致します🙇♂️こんなにも薄く膜を張った世界になんの執着も愛着もなかった本当の俺は誰も分からなくても寂しいだなんて感情はもう忘れるぐらいずっと前に失くしていたはずだった冷えた空にひゅうと喉が鳴る。一瞬、息...
2020.12.05 11:17スナオナキモチいつから変わったのだろう春夏秋冬当たり前のように過ごした季節は本当は当たり前なんかじゃなかった春は出会って夏はふざけ合って秋は戸惑い突き放し冬は離せずにいた巡り巡りながら揺れに揺れてばかりでいたずらに時はゆっくりと重なっていく見てきた景色が違いすぎて与えられるものをいつも失くしてばかりだったから零れ落ちた隙間から差し出す手があるなんて知らなかった欲しいなんて願いはいつかまた失くすものだと思っていた...
2020.09.25 12:19キオク ミライ 記憶 未来の先は 2 (文「ランチを一つお願いできるかな」「ランチですね。お飲み物はどうされますか?」「…コーヒーを」「はい。コーヒーですね」 オーダーを取りながらも、先程の二人連れの客を視界の端で追いかけてしまう。 仕事中だ、いけない。とふるりと首を振れば、接客中なのを思い出して、慌てて客の方に視線を移す。「す、すみません! こ、こ、こ、コーヒーはしょ、食後にお持ちいたしましょうか?」 動揺に比例するようにひっくり返る声...